2018-04
タメさんと藤織り
光野タメさんの藤布による井之本泰氏のためのタッツケ
湿気を含んだ玄関戸を開けると、外の明るさとは裏腹に、土間の暗さに、一瞬、目がくらみ立ちくらむ。
「誰じゃいな。こんな雪降りに。」
「資料館の井之本です。」
「また、資料館の兄さんかい。」
煤けた障子越しに、囲炉裏の明かりで丸まった姿の声の主が映し出された。
囲炉裏端にヘコッテ(座って)、両足を投げ出し、足の親指に繊維を引っ掛け、さばきながら、スルスルと結び目をつくることなく、手の親指と人差し指の感覚で撚り合わせ、横に置いたハリコ(張り子籠)に繰り入れていく。これをウム(績む)という。
見ていると、指先に目があるのではないかと思わせる手さばき。まるでその姿は繭をつくるために糸を吐く蚕のようだ。
「ウラ(私)は。人前で、藤織りのことを話したこともないし、教えたこともない。何回頼まれてもでけんもんはでけん」とがんとして断りつづけられていた。
「雪のなかを何回も頼みに来とんなる。せめて一回でもカタッタッタ(関わる)らどうや。」蒲団に包まる連れ合いの新太郎さんの一言で、光野タメさんと小川ツヤさんの指導のもと、見よう見真似の藤織り講習会がはじまった(1985年(昭和60年))。
藤織りを伝えるおばあさんたちも高齢化で、その技術が危ぶまれることから記録映画を撮影することになった(1987年(昭和62年))。
当時、京都の織物問屋「秀粋」の依頼を受け、茶室用の座布団に加工するために、織り幅が約45㎝だった。撮影にあたっては昔ながらの着幅約35㎝にもどしてお願いすることになった。
「一反では調子が出ないので、二反織ることにしょうか」と主役のタメさん。ついてはその2反(1反15万円×2反+織りはじめと織じまいも含め32万円)を買ってほしいとの申し出。当然と言えば当然のこと。
資料館勤めの駆け出しだった私にとって、資料館で購入することも考えられたが、予算化することが出来ず、結局、映像記録とともに現物の反物が残るんだと自分に言い聞かせ、思い切って購入した。
そして今、その一反を使って、前田征紀さんのところで「タッツケ」に仕立ててもらった。雪解けとともに、タッツケをはいて野良仕事をはじめることにしょう。
タメさんも「アンタもモノ好きな人だ。」とあの世で笑っていることだろう。
合力の会・井之本泰
囲炉裏端で座り藤績みをするタメさん
田中茂雄
翡翠のかしはて展
翡翠の露に包まれた白瓷のかしはて
日々、自分自身の神性に向き合う祭器として
昨年の作陶展につづき、Center for COSMIC WONDERでは田中茂雄 「翡翠のかしはて」展を開催いたします。
奈良の明日香村、築280年の古民家に暮し、季のある山谷に構えた穴窯 李渓窯と倒炎式焚窯で作陶する氏。
この度は田中茂雄氏による神性や霊性への作用を願うかしはてを発表いたします。
みなさまのお越しを心よりお待ち申し上げております。
会期:
2018年4月28日(土)− 5月6日(日)
会場:
東京都港区南青山5-18-10
午前11時 − 午後7時
*休館日: 4月27日(金)
オープニングレセプション:
2018年4月28日(土)午後4時 − 午後6時
初日 28日と29日に田中茂雄氏が在廊いたします。
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茶寮 枇杷「竜宮のかしはて」会
初日 4月28日(土)料理家 植草奈緒氏によるお食事会を開きます。
田中氏の器で春の滋味に満ちたお食事をご用意いたします。
日時:
4月28日(土)午前11時半 / 午後1時半
要予約、各会 4名様限定 / 3,500円
*ご予約の受付は終了いたしました。