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2024-12

エレン・フライス

Dec 19, 2024 | Free Press 

Elein Fleiss_FREEPRESS

 

日本から戻ってきて1ヶ月が経った。最初の2週間は体調が悪く落ち込んでいたが、しばらくして回復した。ようやく景色に秋の色が現れ始めた。遅い秋の始まりだった。寒くなってきたが、私の小さな庭の赤いバラにはまだ蕾があったので、枝を切って花瓶に挿した。数時間後、蕾は大きく開いていた。

 

いつも日本を恋しくなるが、パリを恋しくなることはない。パリを離れて、16年が経った。

若い頃は、パリの建築や雰囲気がとても好きだった。大人になり実家を離れてからは、新しい地区を知るようになり、街を散策して新しい通りを見つけることに夢中になった。ある時、セーヌ川の左岸にいるほうが落ち着くことに気がついた。右岸で育ったが、初めて一人暮らしをしたアパート、オリヴィエとPurpleを設立した場所は左岸だった。次に引っ越した場所もチャイナタウン(13区)だった。パリでの最後の住まいは右岸だったが、セーヌ川にとても近かったので、たびたび川を渡り左岸に着くと、ちょっとした安堵感や幸福感を感じていた。ある日、川のある南の方へ散歩に出かけようとしたが、気分転換に別の方向に行ってみようと思った。しかしアパートの下に降りて歩き始めると、セーヌ川を渡りたいという強い欲求が湧き起こり、まるで磁力に引かれるような感覚になったことを覚えている。

 

今はパリから620キロ南に離れたところにいる。まさにあの時に惹かれた方角だ。パリを離れ、この村に住んでいることに今でも驚いている。私自身を含め、誰も想像できなかったが、後悔していない。

今年の11月に日本へ滞在しているとき、もうフランスやヨーロッパに戻る気持ちになれなかったが、自分の村を島のように考えてみた。フランスはますます不穏になり、世界全体もそうだ。私たちは荒れ狂う海に囲まれているが、それでもまだ島はいくつかある。私は無人島に住んでいない、沢山の友人がいる、そして自分の島が美しい風景に囲まれていることに感謝をしている。

 

ここ数日、雨が降り、風が強く、葉があちこちに舞っている。ほとんどの木々は葉を落とし枝を露わにしたが、ダウニーオークだけは冬の間ずっと黄金色の葉をつけたまま、風に揺れ、晴れた日は輝いている。ダウニーオークは、春が来て新しい緑の葉が生えるときに最後に葉を落とす木だ。私はオークがたくさんある土地に住んでいる。冬になると、暗い常緑の茂みや木に絡まる蔦の中でオークは目立つようになる。灰色の風景に黄金色のスポットが点すように。

 

2024年12月11日

エレン・フライス

 

Photography by Elein Fleiss

 

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エレン・フライス
L’Hiver

Dec 18, 2024 | News 

Elein Fleiss_1

 

エレン・フライス「L’Hiver」の写真作品と冊子が、COSMIC WONDER Online Shopに入荷いたしました。

 

撮影した3人の女性は、私と同じ村やその周辺に住む友人たちだ。私同様、彼女たちもそれぞれの場所から村に移住してきた。私にはオフホワイトのウールの服を着て冬景色の中を歩く女性たちのイメージがあり、まずそこからスタートした。それ以外のもの、産業革命後の風景、原子力発電所、さらにはメイクアップなどは偶然の賜物であり、プロジェクトの方向性を変えた。「偶然の賜物」というのは、予想し得ないことを取り入れることにした、という意味だ。ー エレン・フライス

 

2024年秋、Vacant/Centre(東京)とElbereth(京都)で開催した「L’Hiver」展による写真作品と冊子。写真作品は、彼女が暮らす村の周りに住んでいる友人たちや自然に囲まれた暮らしの風景に産業革命後の印象が重なる。写真は竹紙にインクジェットプリント。冊子は、現在と十数年の時を回想しながら綴られる彼女のダイアリーと本展で発表された写真が交差する。カバーはリソグラフ2色刷り。

 

Elein Fleiss  “L’Hiver”

 

エレン・フライスは90年代から2000年初頭にかけて、独自の編集視点を持った雑誌『Purple』を創刊、2003年から2007年の『Purple Journal』では、独創的な美意識を通したジャーナリズム雑誌を発表してきました。現在、フランスの南西部トゥールーズに近い中世の趣が残る村に暮らし、写真や文章による作家活動が注目されています。

 

Elein Fleiss_2

 

Photography by Elein Fleiss

 

 

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