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木と人
かつて日本の山には、杣(そま)と呼ばれる人々がいた。
杣とは、山へ入り木を伐り、またそれを運び出すことを生業とする人々である。
機械化が進んだ現代と違い、人間の体力と知恵、馬の力のみで険しい自然と巨木を相手にする仕事は危険を極めたが、今となってはそれを想像する事さえ難しくなってしまった。
そんな杣の仕事に欠かせない、「ヨキ」という道具がある。
それは一般に言う斧と同じ道具だが、杣の人々はヨキと呼ぶ。
そしてそのヨキには必ず、左面には3本、右面には4本の筋が入っている。
一説には、左側の4本は地水火風の4つの気を表し、それがヨキの語源にもなっているのだという。また反対側の3本の気は、ミキ、つまり御神酒(おみき)を表し、木を伐採するにあたって御神酒の側を木の方へ向け立てかけ、柏手(かしわで)を打ってから仕事にかかるのだという。
しかし、本当にそれだけのことなのだろうかと、何かがひっかかっていた。
そんな時、偶然にも続けざまに2つのことを知った。
長野県に秋山郷という雪深い集落があり、そこの杣人たちは3と4という数字を畏れ、自分の干支に当たる日から数えて3日目と4日目の日には、決して山へ入らないのだという。しかしその当人達も、ずっとそうしてきたから、という以上の事は知らない。
また別のところからは、陰陽道では3は奇数で陽、4は偶数で陰。 つまりヨキには陰陽が表裏の関係で存在している、と教えられた。
そこで何かが繋がった気がした。
陰と陽とは別のものでありながら、常に一体だ。
ヨキは道具の性質上、ひとつのものをふたつに分けるものであるが、陰と陽とに分ける事により、分けながらにして繋ぐのではないか。木の伐採に関して言えば、伐採され木材になる側と切り株の側との何か(記憶のようなもの)を繋げる意味を持っているのでは。
そして杣人達は、その数字を畏れながら、神性を感じているために山へ入らないのではないか。
木材として流通している一本一本の木が、その山々と今だ繋がっているのだとしたら、そんな願いをもって杣と言われる人々が仕事をしていたとしたら。
我々の木の扱いは、本当に今のままでいいのだろうか。
2016年3月6日
川合優