Free Press
静寂の未知炉、新たに光を灯すよう
第3章
paper and crystal 2003
永遠であるものと永遠でないもの
− たとえば紙と水晶をならべてみた
では船長、永遠を知るものはだれなのか?
私はそれを、船にのせてゆこう。*
全てのコレクションが紙でつくられ、その一つ一つには、フラットにカットした水晶がアタッチメントされた。水晶が永遠であり、紙が永遠ではないということではなく、全てはつくられては壊れなくなってゆくという、一刻にとどまることがないことを感じさせることを作品として発表。
N.H: Paper and Crystelというのは紙でできた服のコレクションです。Cosmic Wonderでは最近も、紙衣という和紙をつかった服が発表され、「水会」「お水え」でも着用されたのですが。当時のコレクションPaper and Crystelについてうかがいます。拡張するファッション展のとき、スーザン・チャンチオロが当時のCosmic Wonderの紙でできた服を着て、オープニングに現れました。「生活のなかで本当に着られるんだ」と感慨深かったですよね。
Y.M: 笑 パリコレで発表したときは、リベラシオン新聞の朝刊に片面全部がこの時の紙の服の写真で、紙に紙の服の写真が印刷されていて面白かったです。
N.H: 布とはまったく違うシルエット、ボリュームが出ていますね。
Y.M: 制作してみたら、思いのほか、すごいボリュームでした。
ずっと好きであつめていたものが水晶でした。また、印刷物や紙でできたものがとても好きです。だから、自分の好きな2つのものを並べてみよう、という。そういう感じで始めて、その2つが対比できたらきれいだなと思いました。
白い服はフェデックスに使われるような郵送用の紙を、他の色の紙はリサイクルペーパーを使用していました。紙に芯を貼ったり、裏から布を貼ったりして破れにくくしていました。
Forest Heights Lodge COSMIC WONDER 2004
森林宿舎コズミックワンダー
あなたの空に太陽と月が同時に現れます。
森林宿舎コズミックワンダーにあるもの
昼間用のナイトウェア、昼間用の寝袋、昼間用のまくらとベッドカバー、昼間用のピクチャー*
N.H: Cosmic Wonderのコレクションは、この後大きく方向性を転換して、男女の群像が美しい理想郷にたたずんでいる、という方向に向かいました。最初がForest Heights Lodge Cosmic Wonderです。それから、magic villageへと続いていきます。
Y.M: 9.11のことをずっと考えていました。いろいろな要素を行き来しながら制作してきたわけですが、個人的な表現から少し離れてみようと思いました。制作に対しては、理想郷的なこと、自由や精神世界への憧れというのは、初期からあったのですが、それをもっとはっきり、視覚的にも伝えていこうと。精神世界への興味を作品に取り入れていくことは、今も続いていることですが、その方向にどんどんいこう、となりました。クリエーション重視の側面と、スピリチュアルな印象を持ち、服としても着心地の良いものという側面、その2つでずっとゆれ動いていたと思います。空間を意識して制作することは変わらないことだったかもしれないですが。
N.H: 今も、この先も、その基本的な姿勢は変わりないかもしれないですね。
Y.M: 最初から同じようなことを考えてやっているにしても、この時期からもう少し、誰が見ても自分の見ている方向性をはっきり示そうと思うようになりました。いま自分がどちらの方向を向いているかということを示すのも、アートの役目の1つ だと思うので。
N.H: 最近のことですが、スタジオも住まいも美山に引っ越されたことは理想郷のイメージだったからなのでしょうか? 空間のなかの服というか、これまで描いてきた理想郷が現実になっていく、実生活でのプロセスなのかなと思います。
Y.M: 精神性を深く理解して創造することができたらと思っています。
山の暮らしの中から、そのような何かを生み出せるでしょうか、
自然に近い瞑想的な生活を行うことで助けとなるでしょうか。
ここから何が生まれてくるでしょうか?
*詩のテキストはコレクションにつく当時のコンセプト
2017年1月17日
林央子 前田征紀
paper and crystal 2003
Photography by Shoji Fujii
Forest Heights Lodge COSMIC WONDER 2004
Show at Cosmic gallery, Paris
Photography by Yuki Kimura