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美し山の春雪

Feb 05, 2018 | Free Press 

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睦月の終わり春節にかけ、この郷は雪に覆われ白く美しい光景を見せる。

その白い世界は人の内にある何かを引き出そうと、篭る作業を夢中にさせる。

その環境は死に近く、いっそうの静けさゆえに生を強く光らせると、

それを反射させたり音のように吸収したりと呆然とした感覚が続くのである。

 

先年、私のいる山すその竜宮は雪の吹きこむ谷間の具合から、それががかまくらのようになった。

思い出すと、山と屑屋の茅屋根がその雪により地続きとなり屋根裏に小さな野生動物が出入りしていたが、

この度は屋根と山が一つにならぬように努力をするだろう。

そういえば、ここにきて1年がすぎたが、それが長かったのか短かったのか自覚がなく、

見知らぬ土地に住んでいるという意識もなく、ただそこで暮らしているというありがたいことになっている。

 

今日のような深々と雪の降る日に、隣の深山幽谷の芦生の森に踏み込めば、

あちらの世界につながる恐ろしく美しい白秘境が現れるだろう。そのような森にいつか入ってみたいと思う。

このようにいうといまいましい文人が言うようなことに聞こえるが、そうではなく純粋に美しい自然をみたいのである。

 

白雪の山に獣の足跡を見つけると、それを辿る遊びが始まる。雪の上に人と野生の交わる痕跡が一時描かれる。

 

2018年1月22日

この郷のご縁に心から感謝をして、

前田征紀

「智異竜宮日誌」より

 

写真: 仲川あい

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