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エレン・フライス
2024年3月2日土曜日
この日、何十億人もの人々が幸福と悲劇、日常と思いもよらぬ出来事の中で暮らしていた。私の1日はこうして始まった。
週末、娘は父親のところで過ごしていたので、私は3匹の猫と家にいた。いつもより少し遅い時間の9時に目覚めた。最初に目に入ったのはベッドの掛け布団に入ろうとする愛猫ミツの顔だったが、ちょうどシャワーを浴びようとベッドから出るタイミングだった。シャワーを出すと湯気が立たない、バスルームは凍っていた。そしてラジエーターが冷たく、お湯が出ないことに気が付いた。階段の照明も点かない、、、最悪のスタートだった。幸いなことにすぐに解決し、電気のブレーカーを入れ直すと、冷蔵庫、コンピューター、プリンター、ボイラーなど、家の中で聞き慣れたさまざまな音が聞こてきた。シャワーから上がると、ポットにお湯を沸かしながら朝食の支度をした。先日、友人のアヤが持ってきてくれた緑茶を入れて、アボカド、生ハム、パンを食べた。最後にスパイス入りのコーヒーを飲んだ。数年前からコーヒーにカルダモン、シナモン、ブラッククミン、コリアンダーシードを入れている。
家の小さな庭に出て植物の芽吹きを観察した。2月に入ってから数週間で春の訪れを感じた。その後、携帯電話でヴィンテージの服を探した。最近は、半ば取り憑かれたようにマニアックな忘れ去られたブランドの服を見つけ出し、永遠に続く宝探しのようなことをしている。この作業には中毒性があるが、きっといつか飽きると思っている。酷いニュースもネットで読んだ後、コズミック・ワンダーのジーンズに母からもらったヨウジヤマモトのセーターを合わせて、ようやく身支度をした。このヤマモトのセーターはカーディガンをカスタマイズしている。ヤマモトのカーディガンをカスタマイズする勇気のある人がいるかしら?と思うけれど、母はそれをしたのだ。それはとてもユニークに溢れ、私も認めざる得ないことだった。
新しい服を持って、家の角にある私の店*へ行った。日曜日の朝は村のマーケットの日で、店が一番賑わうので新しい商品を並べる。それにしても、この日の些細なことをひとつひとつ挙げていたら、この文章は何ページにもなってしまう。
4時30分、車を探しに家を出た。自分の車を村の中のどこに停めたのかいつも覚えていないけれど、今日はすぐに見つかった。そして、ここから車で20分のヴェルフェールに向かった。10月に東京で行われる私の新しいプロジェクトのために撮影する3人の女性のうちのひとり、友人のフロールと会う約束をしていた。フロールは美しい女性で、大工でありダンサーでもある。数ヶ月前に第二子を出産した。家に入ると、ボーイフレンドのフランソワが玄関に出てきて、しばらくおしゃべりをした。庭にフロールがいた。私は彼女に白いウールのコートを持ってきていたので着てもらい、一緒に散歩に出かけた。彼女はバスケットを持って野生のハーブを摘み始めた。その日は光が灰色だったので、あまりたくさんは撮れなかったが、プロジェクトの始まりとしてはよかった。撮影の間、フロールは山菜でバスケットをいっぱいにした。彼女の家に戻り、お茶と一風変わったグルテンフリーの美味しいチョコレートケーキをいただいた。
車で村に戻り、家でワインを選んだ。約束の時間から少し遅れて友人のキャロラインの家へディナーに行った。そこにはキャプシーヌとディヴィッドもいて、彼らはビールを飲んでいた。キャロラインは建築家で、彼女のアパートは中世の家を改築した最上階にあり、1階は古本屋もある。キャプシーヌとディヴィッドは政治活動家で、私たちは主に政治の話をした。二人はとてもユニークなので私たちはよく笑った。キャロラインは野菜カレーを作ってくれた。彼女が薦めてくれた、パリで見たばかりのスタジオ・ムンバイの展覧会の話もした。キャロリーヌの好きな建築家による美しい展覧会で、彼女は行くことができなかったので、私が見たことを話した。
寝る前に、アニー・ディラードの『An American childhood』を何ページか読んだ。最近このアメリカの天才を知り、彼女の本を熱心に何冊か読んでいる。
2024年3月2日土曜日が過ぎた。
2024年3月
エレン・フライス
*エレンの友人であり、アーティストのアンディ・ウィルキンソンと一緒に開いた「Le Batèl 」という店。古着やアンティークの食器などを販売している。
Photography by Elein Fleiss